動物愛護や反対世論により規制される運命となった韓国の伝統料理を本場ソウルで味わったときの記録です。
伝統の犬肉料理
ポシンタン/보신탕の漢字表記は補身湯。単純に滋養強壮スープを意味しますがその実態は食用犬の肉を使った鍋料理です。韓国というよりは朝鮮半島における伝統の食文化で、北朝鮮でも犬肉は食用として流通しているそうです。
ソウルの補身湯専門店
ソウル・錘路<チョンノ>にある補身湯専門店の유성집<ユソンチ>。
事前に調べた地図を頼りに行ってみると店舗は完全に潰れていました。駄目だったか…。
しかし、看板にはハングル語で「隣の新館へどうぞ」と記され矢印の先で新店舗は堂々と営業していました。しかも旧店舗より確実に広くなっています。
私が店内にいる間も地元民らしきお客様が続々と入店し、しかもほとんどが常連さんらしく店員さんと楽しく雑談していました。犬肉料理に対する世界の逆風から補身湯専門店は閉店に追い込まれている、という噂に反してこの店は繁盛していました。
ゴミ一つ落ちていない店内、清掃が行き届いていることがすぐに判る厨房。挨拶されてから座布団に座ります。
補身湯(犬肉鍋)を食べてみた
席につくとすぐに店員さんが来て注文を取ります。私が日本人と判るや、有名な日本語旅行サイトのコピーを出してきました。私も全く同じサイトを見てこの店を調べたのですぐにメニューを思い浮かべることが出来ました。
ここでポシンタン・チョンゴル(補身湯鍋)を注文。
注文して30秒と経たないうちに付け合せとパブ(白飯)が並びました。
タレに載った大量のゴマの香りが際立ちます。青唐辛子は大袈裟ではなく死ぬほどの辛さでした。
補身湯鍋
5分ほどでグツグツと音を立てて補身湯鍋が運ばれてきました。
テーブルに鍋が置かれたと同時に店員さんが酢とゴマを大量に注ぎ込み、瞬時にグツグツが消え去ります。同時に唐辛子とニラとヨモギの強くてぬるい香りが漂い始めて、肉の匂いはほとんど感じません。
犬肉の味
これが犬の肉。
一見すると鶏肉に似ています。
店員さんのお勧めの通りにゴマとコチュジャンをたっぷりつけます。
こうするだけで美味そうに見えてきました。
口に入れるとかなり柔らかく、肉汁は少なめで匂いもほとんど無く食べやすいくらいでした。
プルプルの脂身も鍋に入っていました。
どこの部位の脂なのか分からないスリルがたまりません。固めのゼラチンを食べているようでクセが無く拍子抜けです。
犬肉は珍味とまでは思えない普通なお味でした。
犬鍋雑炊の味
最後にパブを鍋に入れて締めます。
これは美味そう、と大さじ一杯丸ごと口に入れると、肉と脂身を食べているときにはほとんど気付かなかった犬肉の強烈な匂いが口と喉に充満しました。犬肉の匂いはほぼ全てこの出汁に凝縮されていて犬肉雑炊は素直に喉を通りませんでした。それでも残さず最後まで完食しました。
犬食禁止法が韓国国会可決
2024年に韓国国会で犬食を禁止する法案が可決され、数年の猶予期間を経て食用犬肉の生産・流通・販売・料理提供の全てが規制され、朝鮮半島の伝統料理は近い将来消滅する運命となりました。
賛否両論のある犬肉文化ではありますが、韓国国民による民主的な手続きによる決定であれば消滅も致し方ないことと思えます。私としてはこの消えゆく伝統料理を口にする貴重な体験が出来たことに感謝したいと思います。
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