[food] ホンオフェ/홍어회 金メダル食堂(木浦・韓国) – 世界一臭い料理

世界一臭い食べ物と称されるホンオフェを韓国で頂いたときのレポートです。

世界一の悪臭を放つ食べ物・ホンオフェ

韓　홍어회　中　洪魚膾　日　ホンオフェ

ホンオフェは、朝鮮料理のひとつ。ガンギエイ（洪魚：ホンオ、こうぎょ、홍어）の刺身、あるいは切り身を壷などに入れて発酵を促進させた食品で、臭気が大変に強い。

韓国全羅南道の港町である木浦地域の郷土料理で、ガンギエイの切り身を壷の中でオガクズや堆肥の発酵熱を利用して4日ほど発酵させたものである。発酵が進むにつれて身が柔らかくなり、美味とされる。長時間接触するとアンモニアが皮膚や粘膜を荒らすため、躊躇せず食べる必要がある。

口中で長くおくとアンモニアで口内粘膜が糜爛を呈する事例もみられるなど強い臭気で外国人や初心者に敬遠されるが、朝鮮半島南部では冠婚葬祭に欠かせない高級な料理である。

世界有数でアジア最強とされる強烈な臭気は、口に入れた状態で深呼吸すると失神寸前になるともされ、臭気は納豆の14倍、キビヤックの5倍である。

引用元 : Wikipedia日本語版-ホンオフェ

世界一臭い食べ物ランキングで常連のあの料理。
世界中の臭い料理を解説する名著『 くさいはうまい 』(小泉武夫著)にも

「口に入れて噛んだとたん、アンモニア臭は鼻の奥を秒速で通り抜け、脳天に達す。
　この時、深呼吸をすれば１００人中９８人は気絶寸前、二人は死亡寸前となる。」

引用元 : 『 くさいはうまい 』(小泉武夫)

と、ここまで表現されるほどの臭さは如何ほどのものなのか？
世界一臭い料理として有名な韓国料理を全羅南道<チュンラナムド>の港町・木浦<モッポ>で味見する機会に恵まれました。

ホンオフェの発祥地・木浦(韓国)

　木浦は朝鮮半島の南西にある黄海に面した港町。日本から観光目的で足を運ぶにはソウルや釜山から遠くて不便な場所で、私は韓国ツーリングの途中でこの港町を訪れました。

木浦駅構内にある観光案内所で日本語版観光マップを受け取りホンオフェ専門店の詳しい場所を教えていただきました。

ホンオフェ専門の有名店

木浦駅前の道路を1kmほど進んだ先の裏道沿いにあると判りバイクでその店へ向かいます。

店舗が見えてないのに臭い

駅前の道路をバイクで走っていると突如として妙な異臭がヘルメットの中に漂ってきます。

「何この臭い？」

と思いつつそのまま走り続けると異臭が遠ざかっていきます。これから向かう店が発する臭いでしょう。Ｕターンして臭いの発生源を辿りながら店を探します。臭いに気付いた場所から店までは100m以上は離れていていて店舗が視界に入らないのに既に臭いとはさすが世界一。ご近所さんから苦情は来ないのでしょうか？

異臭発生源に到着しました。

金メダル食堂<クンメダルシッタン>

韓国のTV番組からの取材も多く受けている超有名店です。

店内はもっと臭い

店員さんに話しかけます。

　【の】「ホンオフェ食べたい」

店員さん「1人前なら50000ウォン(約6300円)だけどいい？」

店内に入ると刺激臭の空気中濃度が一気に高まります。
厨房のすぐ横のハエと蚊が舞う小部屋に座ります。私以外にお客様はいませんでした。

壁には芸能人が描いたと思われるサインが隙間なく並んでいます。
TV取材を受けたときの映像も紹介されていてレポーターが一様に苦悶の表情を浮かべています。

テーブルクロスは特大の紙製で、その紙が部屋の隅に積まれていて毎回使い捨てるようです。

シーリングライトの内側には虫の死骸が積もっていました。
掃除していないのではなく掃除が追いつかないと推測出来ます。

調理中はさらに臭い

注文を済ませると、厨房では壺のような容器からガンギエイと思われる魚を取り出している様子が見えました。壺の中に充満していた強烈な臭いがこちらまで攻め込んできて刺激臭が最高潮に達します。

ホンオフェを食べてみた

メニュー

　《メニュー》(全３種類)

　　1.ホンオフェ (ガンギエイの刺身)
　　2.ホンオチム (ガンギエイの煮物)
　　3.ホンオタン (ガンギエイのスープ)

※他にはアルコール類やお茶、団体様向け宴会メニューがあります

メニューは英語/日本語/中国語が併記されています。
もちろん最も強烈な臭いのホンオフェを注文しました。

目の前に並ぶホンオフェ

注文から約15分後、ついに世界一の料理が運ばれてきました。

これがホンオフェです。

メインの刺身の他にキムチ・豚肉・コチュジャン・ゴマ・唐辛子・漬物等が付きます。

既に部屋全体が限度を超えた刺激臭で充満しているおかげで鼻を近付けても料理の臭いはもはや気になりません。
店員さんからはホンオフェ＋豚肉＋キムチの３つを挟んで食べる三合<サマプ>と呼ばれる食べ方を教えていただきました。お好みでコチュジャンやゴマを漬けます。

ホンオフェを口に入れてみると

見た目はなかなか美味そうです。
臭さも忘れて(忘れてないけど)さっそく一口目。

口に入れてしばし様子を伺います。
臭いもそんなに気にならなくなったし、濃厚な味の刺身で餅のように柔らかい歯応えも好みです。　

「なんだ平気じゃないか…」

　と、安心して深呼吸した次の瞬間…

「うっっっっっっ！！？」

息を吸い込んだと同時に喉に強烈な刺激痛が走り、
たまらずむせて咳をすると今度は鼻腔が刺激痛に襲われ、
口の中もチクチク痛み出してきました。
アンモニアの刺激臭にやられて涙と鼻水が大量に出てきます。
本気でキツくて思わず口の動きが止まります。

ティッシュを取り出している隙にハエが何匹も刺身に着地し、同時に蚊が手足に着地して血を吸いまくっています。
涙で霞む目でハエと蚊を見つけてはひたすら払いのけます。

喉と鼻腔と口の痛みに耐える
＋
ハエと蚊を追い払う
＋
ティッシュで涙と鼻水を拭く

これが同時進行して食べるのが無駄に忙しく、何とか一口目を食べ終えるまでには10分以上が過ぎていました。

この刺身、臭いはともかくモチモチとしていい食感ですが骨がかなりの曲者でした。小骨とは言えないほど大きくて硬く、噛んだ後には歯が痛くなるほどです。しかも身の部分よりも臭いが強く、骨を噛む度にジュワっと臭いが染み出して口内の粘膜をチクチクと刺激してきます。まさに悪臭源がたっぷり染み込んだ硬いガムのようです。

１時間半くらいかけて18切れの刺身をやっと平らげました。

出されたお食事は残さず食べる主義の私が完食をあきらめて骨だけ残すことにしました。刺身一皿を平らげるのにこんなに時間かかかったのは我が人生でこの一度きりです。我ながらよく頑張りました。

水を注ぎに来た店員さんが皿に残った骨を見て脚をさすりながら、

「あら、骨は残すの？関節痛に効くのよ～ウフフ」

のような身振りと笑顔で骨も食べるよう迫ってきました。勘弁してください。

食べ終えた後の口臭が

世界一の料理を食べ終えた達成感に満たされすがすがしい気持ちでヘルメットを被りました。

しかし、気を抜くのはまだ早かったようでヘルメットの中に店の臭いが充満しています。自分の口臭が最強に臭くなっていることに気付きました。しばらくバイクを運転していると偏頭痛にも襲われました。後味もたっぷり楽しめます。

その夜は歯ブラシ・歯間ブラシ・楊枝を総動員してお口をきれいにしてヘルメットも丸ごと水洗いです。

食べ終えた後の体臭が

翌日には口臭は落ち着いているのにまだアンモニア臭が残っています。どこから臭ってくるのかはっきりしませんでしたが、気温が上がり出した頃にその異臭源が判りました。
自分の汗です。体臭がアンモニア臭に変わっていました。オヤジ臭を更に刺激的にした異臭です。
このとき着ていたTシャツは日本に帰ってきても臭いが完全に取れず雑巾となりました。

食べ終えた後の体重が

臭さから徐々に開放されてもなぜかホンオフェ完食後は食欲が急激に落ました。
食後からほぼ24時間、水分以外は何も口にしなくても平気でした。体調不良になったわけでもなく、食欲はなくても体力が落ちることもない不思議な感覚に身体が包まれていました。
この数日後にソウル市内のサウナで体重を量ったら11日間で7kg痩せていました。ダイエットに効くという謳い文句だけは事実だったようです。

偉大なる伝統の発酵食品

金メダル食堂の斜め前にある木浦第一高校。ここは金大中元大統領の出身校で立派な石碑が建立されています。金大統領もホンオが大好物だったといわれています。

「世界一臭い料理を食べたらこんなに大変だった」

と面白おかしく書くだけではホンオフェの味を的確に語っているとは到底思えません。この料理がある食生活に慣れ親しんできた方々こそ理解出来る味であり、私のような一見さんが一皿食べきっただけでは到底理解は難しいでしょう。

私がホンオフェを食べることはもう無いかもしれませんが、現在では漁獲量も減り高級食材と化しているこの素晴らしき伝統料理が地元民の皆さんに末永く親しまれ、これからも世界一の座を維持してほしいと願うばかりです。

金メダル食堂　詳細情報